ご縁があって、発達の遅れた児童の送迎を承る事になりました。
ご家族と送迎契約書のやり取りや介護タクシーを利用するに至った経緯を伺い、その流れで
対象児童の特徴を聞いてみると
- 筋金入りのクルマ好き
- 好奇心旺盛で質問の嵐(笑)
- 基本的に人見知りなし
- 感情の起伏が時に激しくなる
だそう。
私自身もクルマ好きでして、時に、愛車の整備や介護タクシーの整備(ブレーキパッド交換とかラジエター交換とかスターター交換とかスパークプラグ交換とかウザくてスマン)も独自に行う為、何かと共通の話題で盛り上がりそうだなと、
保護者から頂いた情報を基に【彼】の人物像をイメージしていました。
送迎開始前日にもう一度訪問して顔合わせを行った方がお互いにイイでしょう、という流れになり再び彼のお宅を訪ねました。
玄関先のチャイムを押して4秒後にはか細い声が玄関内から聞こえたかと思うと、
出てきた子供は身体の小さな・しかし・可愛らしい児童でした。
私が訪問する事を大変心待ちにしていたようで、介護タクシーに乗れる事がとてもとてもたまらなく嬉しくて興奮する様を、人の気持ちを読み取る事に長けていない私でもハッキリと確認できるほどでした。
「ねぇ、介護タクシー何処に停めているの?」
「何色の介護タクシー乗っているの?」
「何処に座ったらいいの?」
クエスチョンの波状攻撃が予想通りかつ予想以上に私に襲い掛かってきました。
食卓テーブルの上に載せられている大人の事情を書き連ねた堅っ苦しい漢字が印字されている紙切れ一枚を不思議そうに眺めながらも、【彼】は明日こそ乗車できる介護タクシーの事で脳内シェア98%を満たしているようでした。
そのような様を見るにつけ、私は、ふと自らのココロに問うたのでした。
「最近、、というか、大人になってこんなにワクワクした事ってあったっけ……」
大人たち ドキドキしてる?
何かどこかで見聞きしたような気がしますがそのような気がしただけでしょう。
保護者と諸処の手続き・打ち合わせを確認しあい、いよいよ送迎スタート当日と相成りました。
助手席に乗る事をリクエストした【彼】は飛び上がる気持ちを抑えるかのようにしっとりと助手席へ乗車。体の小さな児童故、シートベルトを装着した後の両足・靴底がフロアマットから30センチほど浮かび上がっているのです。
にもかかわらず、
「これ何?(タクシーメーターを指して)」
「後ろの椅子 何?(リクライニング車いすの事ね)」
【彼】の好奇心・興奮のエナジーは緩やかに右肩上がりのカーブを描いたのでした。
送迎も終わりを迎えようとする中、介護タクシー車中で私は、大の大人が一生に一度子供らに放つセリフを【彼】に投げ掛けたのでした。
「将来、どんな仕事したいの?」
間髪入れずに【彼】は、
「介護タクシーしたい」
滑らかすぎるほどに滑らかにその言葉が私に放たれました。
私は独身です。40手前にもなって未だ独身です。
同級生から「おカネないくせにより好みしている場合かよ」とハゲましの言葉を毎日頂いている現実です。
「介護タクシーやりたい」
クルマ好きという事や、初めて乗るであろうタクシーですからそこまで深く心に落とし込まれた意味ではないと思うのですが、【彼】が私に放った言葉は一瞬、父親であるかのような魔法をかけられたのです。
日々、売り上げを上げるためには・移動困難者への旅行実現とは・障がい者・高齢者へ沖縄観光を届けるには とレンコン並みの脳みそをフル回転させて眉間にしわを寄せてタクシー事業を運営していますが、何か、今まで取り組んできた経緯を【彼】に認められたかのような気がしてココロがむずがゆくなったのです。
私は5秒間だけ【彼】の父親になれました。
学校の先生にバトンタッチする最中、【彼】が「また来週ね ハナシロさん」と、か細いハスキーな声で私を見上げながら呟くと同時に、私と【彼】は、無意識に自然とグータッチを交し合ったのでした。
毎日が少しばかり楽しくなりそうです。